マンションの大規模修繕は、通常12年ごとに行われる大規模な工事のことを指します。
この工事の目的は、マンションの劣化を防ぐことです。
大規模修繕が必要になる理由
マンションでは、定期的な修繕や小規模なメンテナンスが管理組合の修繕計画に基づいて定期的に行われます。
しかし、外壁の塗装や配管の交換、防水工事などのような大掛かりな工事は、通常大規模修繕の時にまとめて行われます。
マンションの大規模修繕が必要とされる理由は、住居者が安心して快適に暮らすためだけでなく、劣化による事故を防ぐためです。
建築基準法に基づいてマンションや戸建ては建築されているため、最低限の耐震性や防水性は確保されています。
特に新しい耐震基準を満たしたマンションは、十分な耐震性も備えています。
しかし、どれだけ優れた建材を使用していても、風雨や紫外線の影響を受けて劣化が進行します。
そして、外壁のタイルが剥がれて歩行者にケガを負わせるなどの事故が発生する可能性もあるのです。
大規模修繕工事が12年周期で行われる理由
マンションの大規模修繕工事が12年周期で行われる理由は、国土交通省の「建築基準法に関する施行規則」という規定によって定められています。
この規定には以下の内容が含まれています。
1. 築10年を経過した建物(外装材がタイル張り、石貼り、モルタル塗り)について、外装改修工事や外壁全面打診調査が10年以上行われていない場合、3年以内にこれらの工事を行う必要があるとされています。
2. 「建築基準法 国土交通省通告第282号」では、築13年以内に外壁の異常を調べる全面打診調査か修繕を行うことが記載されています。
また、「長期修繕計画作成ガイドライン」では、大規模修繕工事の周期が12年程度とされています。
これは、外装や屋上防水などを含む大規模な工事を効率的に行うための期間とされています。
一般的には、大規模修繕工事では複数の工事が同時に行われるため、コストと労力の面で効果的です。
しかし、最近では野村不動産や東急コミュニティなどの不動産会社が、大規模修繕の周期を18年に延長するサービスを提供しています。
これにより、修繕工事の頻度を減らすことで、住民の負担を軽減し、より経済的な管理が可能となります。
大規模修繕費用の相場と追加徴収の可能性
建物の安全を保ちながら、住民の負担を軽減するために、大規模修繕の回数を抑えることが注目を集めています。
特に首都圏の新築分譲マンションでは、既に多くが「18年周期」を採用しており、今後もこのサイクルが主流となる可能性があります。
しかし、多くのマンションの住民は大規模修繕費用について不安を抱いているかもしれません。
具体的には「大規模修繕にどのくらいの費用がかかるのか?」や「追加で費用が徴収される可能性はあるのか?」といった疑問があります。
そのため、事前に大規模修繕費用の相場を知っておくことが重要です。
一般的に、マンションの大規模修繕には、一戸あたり75万円から125万円ほどの費用がかかるとされています。
また、東京都市整備局の統計調査によると、1回の大規模修繕工事にかかる総額が1000万円を超えるマンションは全体の約8割以上を占めています。
中には3000万円以上の費用がかかる例もあるため、大規模修繕は一般的に高額な工事と言えます。
大規模修繕費用は基本的に修繕積立金から支払われますが、場合によっては追加で費用が徴収されることもあります。
また、築年数によっては毎月の修繕積立金が増額される可能性があります。
マンションの状態によっては、修繕が必要な箇所やその費用は回数を重ねるごとに増えていく傾向があります。
そのため、最初の修繕が比較的少額で済んだとしても、2回目以降は同じ金額で収まるとは限りません。
そのため、多くのマンションでは、「段階増額型方式」と呼ばれる制度を採用しています。
この方式では、修繕積立金が数年ごとに増額され、その時点での所有者が大規模修繕費用を支払うという考え方が取られます。
修繕積立方式について
マンションの修繕積立方式には、将来的な住み替えや売却を前提とした場合にお得な「一時増額型方式」と、生涯にわたる費用を均等に徴収する「均等積立方式」という2つの方法があります。
一時増額型方式では、初期の積立金が比較的低く抑えられるため、将来的な住み替えや売却を検討している方にとっては有利です。
一方で、長期にわたって住み続ける予定の方には、毎月の支出が一定で安定している均等積立方式が安心です。
ただし、均等積立方式を採用しているマンションはまだ少ないため、注意が必要です。
特に、マンションの修繕計画が30年以下の場合は「段階増額型方式」が採用されることが多いです。
これは修繕積立金が段階的に増加していく方式であり、将来的に追加徴収される可能性が高いです。
さらに、長期修繕計画には漏れや抜けがある場合もあります。
例えば、機械式駐車場やエレベーター、給水配管や排水配管、ガス管の取り替え、建具の取り替えなどの大きな費用がかかる項目が見落とされている場合、大規模修繕工事の際に修繕費が不足し、一度に多額の一時金を求められる可能性があるため、注意が必要です。
したがって、今後修繕積立金の増額があるのか、一時金を支払う可能性があるのかは、長期修繕計画を確認して把握しておく必要があります。
長期修繕計画は管理組合が管轄しており、情報を知りたい場合は自ら開示を求める必要があります。
また、大規模修繕工事の内容や流れも把握しておくことが重要です。
工事の見通しが立てば不安感も軽減され、生活が不便になることもありません。
また、1回目の大規模修繕工事と2回目の工事では内容が異なる場合があるため、自分の住むマンションでどのような工事が行われるのかをチェックしておくことをおすすめします。
1回目の大規模修繕工事では、以下のような流れで進められます。
仮設工事
建設工事の期間中に一時的な施設や設備を設置するための工事を指します。
囲いや養生、電力や用水の設置などが含まれます。
この工事では、外壁塗装に使用する足場を建設するため、窓のすぐ外で作業することや、日差しを遮ることがあります。
足場の構築の際には、鉄骨を組み立てる音がすることもあります。
また、施工業者によっては、仮設工事費用を本体工事費に含まないことがありますので、見積もりをする際には、仮設工事費についてもチェックしておく必要があります。
下地補修工事
外壁や屋根を塗装する前に、細かな劣化やひび割れなどを補修する工事です。
この工事は、マンションの外観を保つだけでなく、強度を高めることや塗装の仕上がりにも影響を与える重要な工事です。
この段階でも、窓のすぐ外で作業することや、日差しを遮ることがあります。
タイル補修工事
タイルの劣化や浮きを補修する工事です。
見た目には問題がなくても、調査診断でタイルの浮きが見つかることはよくあります。
タイル補修工事は、外観だけでなく、タイルの落下による危険性を防ぐためにも必要な工程です。
この工事も外壁に関連するため、窓のすぐ外で作業することや、足場による日差しの遮蔽があります。
シーリング工事
外壁のベースが補修されたら、シーリング工事に入ります。
シーリング工事は、外壁の接合部や隙間を埋めるための工事です。
シーリングは、外部からの水や風の侵入を防ぐだけでなく、外壁の保護や外観の美しさを保つ役割もあります。
シーリング工事も外壁関連の工事であり、窓のすぐ外で作業することや、足場による日差しの遮蔽があります。
シーリングの役割とは
シーリングは、建物の外壁にあるタイルとタイルのつなぎ目に使われているゴムのような素材です。
このシーリングが剥がれたりヒビが入ると、建物内部や鉄部に水が浸入し、建物の劣化が進む可能性があります。
そのため、シーリングの補修は建物のメンテナンスにおいて非常に重要な作業となります。
シーリングの補修によって、建物内部への浸水を防ぎ、建物の劣化を防ぐことができます。
また、シーリングの補修によって建物の気密性を高めることができるため、断熱性の向上にも期待できます。
外壁塗装工事の重要性
外壁塗装工事は、マンションの外観を美しく保つだけでなく、防水性や断熱性を保つ役割も果たします。
一般的には、外壁塗装は平均で約10.8年に一度行うべき工事とされています。
この外壁塗装は、大規模修繕の際には必須の工程となります。
外壁塗装には、「上塗り」「中塗り」「下塗り」といった工程がありますが、特に中塗りから塗料が乾燥するまでの3日間は匂いが気になることがあります。
また、塗料を吹き付ける場合はスプレーの音が気になる場合もあります。
匂いや音に敏感な方は、窓を閉めたままで過ごしたり、窓から遠い部屋で過ごすなどの対策を取ることをおすすめします。
鉄部塗装工事の重要性
外壁塗装が終わった後は、鉄部塗装工事が行われます。
鉄部塗装工事は、扉や外部の階段、手すりなどに使われている鉄部を塗装する工事です。
この工事は、共有部分の見た目や耐久性を保つために非常に重要です。
錆が発生している場所は、ブラシで錆を取り除いた後に塗装が行われます。
鉄部塗装も外壁塗装と同様に、音や匂いが気になることがあります。
防水工事の目的とは
最後に行われるのは防水工事です。
防水工事は、屋上や各部屋のバルコニー、廊下など、雨水や汚れから建物を保護するための工事です。
防水工事を行うことで、コンクリートの劣化を防ぎ、建物の耐久性を高めることができます。
また、防水工事によって建物内部への浸水を防止し、快適な住環境を実現することも可能です。
大規模修繕工事の内容と工事回数ごとの違い
大規模修繕工事には、シート防水やFRP防水などさまざまな種類の防水があります。
工事の種類によっては、見積もりや工法が異なることもあります。
ここでは、大規模修繕工事の内容と工事回数ごとの違いについて詳しくご説明します。
2回目以降の大規模修繕工事の内容
2回目の大規模修繕工事では、1回目に比べてより踏み込んだ工事が必要となります。
例えば、1回目では行わなかった「給水管の交換工事」などが必要になることもあります。
その他の工事内容や流れは大きく変わりませんが、建物の劣化具合が異なるため、12年と24年では差が生じます。
具体的には、紫外線や雨風の影響により、建物の劣化が進んでいることが多く見られます。
そのため、同じ工事でも2回目の方が工事期間が長く、費用も高くなる傾向があるのです。
さらに、3回目以降の大規模修繕では、配水管やサッシ、電気設備などの工事を実施することもあります。
また、バリアフリー設計にグレードアップする場合もあります。
ですので、工事を依頼する際には、工事回数ごとの劣化具合や工事内容の変化を考慮する必要があります。
築11~15年目の大規模修繕工事
築11~15年目は、大規模修繕工事を実施するタイミングとして一般的です。
これは、経年劣化や将来の修繕費用を抑えるためです。
特に11~12年目には大規模修繕を行う管理組合も多くあります。
また、工事の実施後は長期修繕計画の見直しも行います。
具体的な修繕箇所は、鉄部、外壁、屋根、電灯設備、廊下・バルコニーなどのマンションの構造部分だけでなく、マンションの設備にも及びます。
例えば、インターホンなども交換されることがあります。
築21~25年目の大規模修繕工事
築21年を過ぎる頃には、第2回の大規模修繕工事が行われます。
この時には、給水管設備の交換が多く実施されます。
なぜなら、給水管の耐用年数は一般的に25~30年とされているからです。
実際、国土交通省の調査によると、築30年を超えたマンションで建て替えを検討する最も大きな理由は「配管や給水設備の劣化」であり、全体の54.1%を占めています。
このように、築年数に応じて修繕の内容や重要度が変わってくるので、適切なタイミングでの大規模修繕を行うことが重要です。
マンションの大規模修繕工事で起こるトラブルと対処法
マンションの大規模修繕工事では、いくつかのトラブルが起こり得ます。
以下にそれぞれのトラブルがどのように起きるのか、そして、それを防ぐための対処法について詳しく説明します。
修繕費用がかさむ 大規模修繕工事の際には、住民から毎月徴収される修繕積立金に加えて、一時金としてまとまった額の支払いが求められることがあります。
具体的な金額はマンションによって異なりますが、場合によっては100万円を超えることもあります。
しかし、大金を一度に支払うことに困難を感じる住民も多いでしょう。
このようなトラブルを避けるためには、マンションを購入する前に長期修繕計画を確認することが重要です。
先に紹介したように、長期修繕計画には修繕項目が網羅されているかどうかを確認しましょう。
もし大規模修繕工事が抜けている場合、修繕を行う際に資金が不足し、追加費用を請求される可能性が高くなります。
したがって、マンションを購入する際には長期修繕計画に注意を払い、修繕費用がかさむトラブルを予防することが重要です。
また、修繕積立金をきちんと積み立てることも忘れずに行いましょう。
こうした対策を取ることで、修繕費用の負担を軽減することができます。
大規模修繕における様々なトラブルと解決策
修繕の進行には修繕委員会による意見のまとまりが必要だが、意見がまとまらない場合や長期化する場合もある。
そんな時は、参加しない選択肢もある。
工事に伴う騒音も大きなストレスとなり得るが、住民側は防音グッズを使用するなどして自分自身で環境を整えるように努めるべきである。
また、施工会社も騒音について事前に説明会を開くことが大切である。
工事期間も想定より長引く場合もあるが、十分な説明と計画を立てておくことが重要である。
大規模修繕を行うまでの流れ
住民参加の重要性と修繕委員会の役割 大規模修繕を行うにあたって、まずは「修繕委員会」を結成する必要があります。
修繕委員会は、管理会社や外部のコンサルティング会社と連携し、大規模修繕の計画・進行を主導する役割を担います。
修繕委員会のメンバーは、一般的にマンションの住民から選出されます。
修繕委員会に選ばれた住民は、業者との窓口になるため、次第に発言力が強くなるメリットがあります。
基本的に、修繕委員会は大規模修繕計画の立案や進行管理、業者選定などの業務を担当します。
住民の立場を代表し、修繕工事の品質や進捗状況を確認し、管理会社や施工会社と連携しながらスケジュールの管理を行います。
具体的には、修繕委員会はマンションの住民に対して大規模修繕の必要性や計画内容を説明し、住民の意見を集約します。
また、業者との交渉や契約手続き、工事進行中の品質管理なども行います。
まとめ
特に重要なのは、住民の参加です。
修繕委員会のメンバーに選ばれなかった住民でも、積極的に意見を出し合い、進捗状況を把握することが重要です。
修繕委員会を通じて住民が工事の進行に関与することで、理解と信頼が生まれ、トラブルや不満の解消にも繋がります。
大規模修繕は、住民全員の生活環境の改善を目指すものです。
修繕委員会の設立や住民の参加は、この目的を実現するために不可欠な要素です。
住民全員が協力し、より良い居住環境を作り上げるために、修繕委員会に関わることをお勧めします。